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灰色は白色になれるか【その白さえ嘘だとしても 感想】

こんにちはあらゔぁんです。

 

今日は河野裕さんが描く『階段島』シリーズ2作目『その白さえ嘘だとしても』を紹介します。

 

 河野裕さんといえば、最近デビュー作の『サクラダリセット』が実写映画化/アニメ化すると聞きました。

猫と幽霊と日曜日の革命 サクラダリセット1 (角川文庫)

 ぼくはサクラダからのファンだったのですが、サクラダは1巻発売がもう7年前と、正直アニメなどのメディアミックスは期待していませんでした! 『階段島』シリーズがフィーチャーされることでこうした嬉しいこともあるんだなぁと思っています。

 

そんな感謝も込めて。『サクラダ』シリーズについてもまた紹介することができればと思っています。

 

一応ネタバレは避けつつのつもり。 

その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

 

 あらすじ

 クリスマスを目前に控えた階段島を事件が襲う。インターネット通販が使えない―。物資を外部に依存する島のライフラインは、ある日突然、遮断された。犯人とされるハッカーを追う真辺由宇。後輩女子のためにヴァイオリンの弦を探す佐々岡。島の七不思議に巻き込まれる水谷。そしてイヴ、各々の物語が交差するとき、七草は階段島最大の謎と対峙する。心を穿つ青春ミステリ、第2弾。

 

 みんな探し物ばかりしている。

島内唯一の物資輸入手段であるインターネット通販が止まってしまった!この事件を皮切りに、みんながみんな探し物をすることに。真辺は通販を遮断したとされるハッカーを、佐々岡はヴァイオリンの弦を、水谷は真辺のプレゼントを、それぞれイブまでに見つけ出そうと奔走することになります。

 

彼らの探し物は群像劇調で描かれ、目まぐるしく視点が変わっていきますが、やがて読者にはその背後に蠢いている謎「クリスマスの七不思議」が提示されます。

クリスマスの七不思議とは何なのか。通販遮断の犯人は。そして階段島の「魔女」とは--。

イブに向かって大小さまざまな謎が動き、明かされる展開がとても好みでした。そしてその中で、群像劇だからこそ描かれる各人の苦悩も。

 

誰だって憧れる。

前作が「七草から見た真辺由宇」に視点を合わせていると言うならば、今作は「島民から見た真辺由宇」にフォーカスしていると言えます。この2つの「真辺由宇」像には大きな隔たりがあるということを、改めて気づかされたような気がします。

 

七草は真辺のことをよく知っている上で、彼女の揺るぎない正義性というものを高く評価しています。七草の理解があって初めて、彼女の純白さというのは良いものとしても描かれることが許されます。

しかし一方で彼女の正義性は、見る人からすれば毒にもなり得ます。ヒーローに憧れる男子の前で、彼女は完璧にヒーローを演じきってしまう。優等生を演じようとする女子の前で、彼女は自分の思いを率直に述べてしまう。

 

生まれながらにして本当に混じり気がない純白な真辺と、白をどこまで塗り足していっても結局は灰色な彼彼女。

まっすぐで歪んでいたとしても、灰色の彼らには純白な真辺が痛烈に眩しく感じるのです。

 

灰色は白色になれるか。

もし自分の近くに真辺由宇がいたら。物語の中で優等生に成りきれなかった女の子が感じたように、ぼくも恐らく嫉妬することでしょう(笑)

でもそれは、自分も同じようにヒーローや優等生といった白さについて考えたことがあるからこそ、真辺の持つ純白さを否が応にも理解してしまうからだと思います。

 

けれども「自分は真辺のようにはなれない」と認めてしまったら、本当にそれで終わりなのか。白さを保とうとすることもできず、灰色に濁っていくしかできないのか。

 

 

今作ではここに一つの帰着点を設けて、物語を締めていますが、本当に『その白さえ嘘だとしても』なんです。変わること自体は叶ってもいい。白くありたいと思うことは認められてもいい。

 

何かが欠落した人たちが集う階段島だから、とても見栄えのするテーマだなと思いました。